数年前から、日本のアニメ業界の問題意識が国内外で高まっている。コロナ以降、こうした話題が取り上げられた。その原因は2つである。コロナそのものが労働者やスタジオに与えた影響と、2023年10月からの新制度「インボイス制度」の導入である。

このような状況の中、多くのアーティストから不満の声が上がり、日本のエンターテインメント業界やアニメ業界では複数の団体が誕生している。その代表的なものが、日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)である。NAFCAは2023年4月に設立されて以来、様々な活動を行っているが、中でも重要はアニメーターの技術力を評価する「アニメーター技能検定」である。

Fullfrontalでは、アニメ業界のさまざまな問題を、実際に体験している人たちと議論してみたいと思っていた。2023年8月、NAFCAのキックオフ・イベント直後関係者2名にお会いしました。一人はNAFCA事務局長・広報の声優の福宮あやの。もう一人はアニメーター・デザイナーの西位輝実である。

NAFCAを支援したい方は、ウェブサイトから会員になることができる。

英語版: https://ffl.moe/NAFCA

聞き手: ワツキ・マテオ

協力: セラキ・ディミトリ

日本語編集: いすづみ、ワツキ・マテオ

このインタビューは、全文を無料でご覧いただけます。なお、このような記事を今後も出版できるように、ご支援をお願い申し上げます。

「そういうことをずっと訴えているんです」

Q. 福宮さんはもともとインボイス制度の反対運動に参加していましたね。どういう経緯で西位さん達のアニメ業界の問題を訴える活動と合流したんですか?

福宮.もともと、私は声優として、彼女はアニメのクリエイターとして、それぞれインボイス制度に反対していました。その中で、一緒に国会議員に陳情しに行っていたんですよ。 同じアニメ業界ではあるので、そこで話が合ったんです。

NAFCA の活動は最初、西位さんと植田益朗さんとヤマトナオミチさんの話から始まりました。

世間ではインボイスの話をすると、「それは声優業界のギャラが悪いのが問題だ」「アニメ業界の働き方が悪いのが問題だ」という意見をいただきます。それはそれとして問題はありますが、「それをさらに苦しめる税制は良くないじゃないか」というのを以前から訴えています。だからといって、その業界の問題に対して何もしない訳にはいきません。

そこで、まずはアニメータースキル検定をやろうという話を、この 3 人でしていたんです。

ただ、この 3 人はすごく多忙で活動が難しい状況でした。そこでこの活動を手伝う人を探している時に私が参加したんです。

Q. 難しいところに着きましたが、(笑)インボイス制度について簡単にもう一度説明していただけますか。

福宮. もともと、日本の消費税は EU の VAT とは全然違います。すべての物品に消費税がかかるんですが、仕入税額控除の仕組みをインボイスシステムではなく、帳簿方式で管理していたんです。売上と収入から自分で納付する税額を計算しています。

その税率が 8% だけだったのが、8% と 10% の 2 つになりました。それがややこしいから、はっきりさせるために、領収書や請求書に納付する税額をしっかり書いて、それを使いなさいと政府は言ってるんですよ。

元々の帳簿方式に加えてインボイス方式の領収書にも対応するとものすごくややこしくなってしまいます。帳簿方式だけでも十分複雑なので、今まで収入が 1000 万円に満たない人たちは消費税を払わなくて良かったんです。

例えば、自分の収入が 1000 万円あったとして、500万円の経費を使ったとします。そうしたら 500 万円利益があるので、それに対する 10%の消費税を納めます。

これが消費税法で決まっている帳簿方式の仕組みです。

計算が大変ですよね。

それが、収入が 1000 万円に満たない人は事務手続きが非常に煩雑だし、生活が苦しいだろうということで消費税を自分で納めなくて良かったんです。ところがインボイス制度が始まると、「適格請求書」というインボイス番号が書かれた請求書を用意する必要があります。そしてそのインボイス番号が正しいことを証明するために「課税事業者」にならないといけないんです。

アニメ業界や声優業界では、例えば年収 300 万のように非常に低い年収の人が多くいます。そのようなギリギリで生きている人たちに対してさらに税金を課すのはおかしいですよね。もっとたくさん稼いでいる企業があるから、そちらに課税すればいいわけですよ。こういうことをずっと言っているんです。

お金の問題以外にも、手間が増えるという問題があります。課税事業者になると消費税の確定申告をしないといけなくなります。1 年の取引を整理したものを税務署に申告しないといけないんです。それがものすごく大変なんですよ。

これまでは所得税の納税額を税務署に申告していました。それが消費税の分をもう 1 回申告しないといけなくなるんです。クリエイターたちは時間がないので、そんなことをしてる場合じゃないですよね。

また、課税事業者に登録してしまうと、インターネットでリストに番号が出されてしまうという問題もあります。それを検索すれば、名前も出てしまうんですよ。しかも本名が。

Q. あ、じゃマイナンバーカードと同じデータ漏洩のような問題が起これるですね。

福宮. 似たような問題です。

私たちはペンネームで仕事をしています。本名が知られてしまうと怖いんですよ。私は誰にも知られていないからいいんですが、売れっ子の声優さんだったら、ストーカーが来てしまうことも考えられます。いろんな身の危険につながる欠陥システムを運用していいわけないですよね。そういうことをずっと訴えているんです。

Q. スタジオや声優の事務所はスタッフを守れないんですか?例えばインボイスをクリエイターの代わりに申告するといったことはできないんでしょうか。

福宮. 今までの仕組みでは、例えば私が 1 万円の仕事をしたら、1 万 1 千円をもらっていて、会社側はその 1 千円を仮払消費税として1回払っていたんです。だから会社は年度末に経費を計算する時に、その 1千円分を消費税ではなく経費として扱えたんですね。「仕入税額控除」と言うんですが。

この 1 千円は会社が私に支払ったから、もう一度消費税を払う必要はないというシステムです。

それがインボイス制度の導入で変わります。

もし私が課税事業者として登録せずインボイスではない請求書を発行したら、私が 1 万 1 千円で出した請求書の 1 千円分をもう一度企業が税務署に払わないといけなくなるんです。

だから、企業に課される税金が増えるシステムなんですね。これがインボイスのすごく嫌なところです。

事務所もクリエイターをかばってはくれます。名前が公表されてしまうことを含めて。

しかし、お金の問題が出てきてしまうんです。もし私が課税事業者に登録しなかった場合、事務所側が私にギャラを支払う時に税金が増えることになるんです。 

事務所やアニメスタジオは儲かっているわけではなく、本当にギリギリで経営しています。

そこで増税され、クリエイター全員分の支払いが 10% 増えると潰れてしまいます。その分を補填するためには、クライアントにギャラアップを要求するか、私たちクリエイターにギャラを支払う時に消費税分を引くかしかないです。今、日本は全体的に景気が良くないのでギャラどころか給料も上がらないです。そんな中でクライアントにギャラアップをリクエストしたところで、ギャラを上げてもらえません。そうすると、クリエイターのギャラを絞るしかない。

Q. アニメーターの場合、最近は給料が上がっていると聞きましたが。

福宮. アニメーターの場合ですね。少しは上がっていますが、物価も上がっているので、生活が良くなったとは言えません。もちろん、10 年前の新人はキャリアアップして、今の給料が少しは上がっています。しかし、10 年前と同じような状態で入ってきた新人が劇的に儲けられるようになってるかというと、そんなことはありません。

Q. その上、よく言われる動画マンの給料が低いという問題がありますね。原画マンはある程度まで生活できるが、動画マンは給料が低い上にお金の工面ができないという問題。

福宮. そうなんです。

動画を 1 枚 200 円、 300 円といった価格で描くというのは今もあまり変わっていないと聞きます。

Q. インボイス制度は多くの業界に影響するので他業界でも反対運動が起きていると思います。アニメ・声優業界だけではなく、例えば漫画業界のそういった運動と手を組んで、エンタメ業界全体での反対運動につなげていくことはお考えですか。

福宮. はい、すでにやっています。

去年、エンタメ関係の 4 つの団体で一緒に活動をしていて、記者会見を開きました。アニメ業界・声優業界・漫画業界・演劇界の 4 つです。

漫画家も大変だと聞きました。たとえ売れているとしても、アシスタントを雇わないといけません。アシスタントで年収が 1千万円を超えている人は 1 人もおらず、全員が免税事業者です。だから、もし雇っている漫画家の税金が増えてしまうと苦しいわけです。だからといってアシスタントの給料を下げると、アシスタントは辞めてしまいます。そうなると、仮に年収 1千万円以上の漫画家であっても、アシスタントがいなくなったら仕事ができなくなるかもしれないんです。

「制作現場に混乱をきたしています」

Q. ここまでインボイス制度の問題について伺ってきました。もちろんそれも重要ですが、現在 NAFCA で中心になっている活動は人材育成ですね。

福宮. そうですね。

Q.最初に、アニメータースキル検定について説明していただけますか。

福宮. はい。ここまではNAFCAというよりもVOICTIONでしたね(笑)。

現在、アニメ業界では人材不足が叫ばれています。原因としては、単純に人が足りないのはもちろん、多くの人のスキルが追いついていないというのがあります。仕事はたくさんあるにも関わらず人が足りないので、アニメーターに自分が描いた仕事に対するフィードバックを待っている時間がないんですよ。

もしフィードバックされたものが返ってきたとしても、アニメーターは次の仕事をやっているので、「もうその仕事はできません」という状況の人も多いんです。そうすると、自分の仕事の内容にとって合ってるのか間違っているのか分からず、なかなかスキルアップできなくなってしまいます。そういう状態の人が作画監督になる、そもそもアニメの作り方がわかっていない人が現場にいるといった状況になり、制作現場に混乱をきたしています。

誰かがフォローに回らなければいけません。

そのため慢性的な人手不足に陥って、制作進行が SNS で絵を上げている素人をスカウトする状況が生まれます。アニメーターになりたいわけではなかった人がアニメの作り方や素材の組み方が分かるわけないですよね。しかし、仕事はあるからたくさん描いて、それで仕事が成立してしまっている。

アニメ業界がそういう悪いスパイラルに入ってしまっています。それを 1 回リセットするために、アニメーターの今のスキルを確認し、必要な知識を提示するということをこの検定でやりたいんです。

専門学校ですら先生が足りない状態です。学校の先生もこの検定や教科書を通じて育成していきたいと考えています。

Q.「「専門学校は直接現場に繋がらない」という話はアニメーターからよく聞きます。それはどうしてですか?

福宮. 色んな理由があると思います。

1 つは、実力のあるアニメーターには時間がないためです。そういうアニメーターは仕事が多く、引っ張りだこです。そのため学校に教えに行くことができません。

もう 1 つは高い技術を教えようとすると、基礎のハードルが高すぎて、学生が辞めてしまうんです。学校も商売なので生徒が辞めてしまうとお金が入らなくなってしまう。だから辞めないように優しくしているところもあります。カリキュラムがしっかりしていないこともあるので、生徒はなんとなくアニメの制作作業全体を少しずつ経験するだけで修了してしまうんです。もちろんアニメ業界の全体像を把握するためには必要なことですが、限られた時間の中では基礎技術を高める時間が減ってしまいます。

制作作業全部を経験する必要はない、とはいいませんが、アニメーターに関しては、もっと現場で必要なことをしっかり教えてからだろうと考えています。お金をもらう以上、プロの現場は遊びではありません。基礎も知らずに入ってくる学生たちがかわいそうです。

私達も色んな先生とお話する機会があるのですが、「学校だからこうやらなきゃいけない」というカリキュラムの縛りがあって、どこか現場と違うことになっています。こちらからカリキュラムとして提案できる教科書の素材なども提案していきたいと考えています。

Q. アニメータースキル検定の次の段階としてカリキュラムを作ることは考えていらっしゃるんですか。

福宮.そうですね。次というよりは検定と同時に進めています。

検定のための教科書を作っているんですよ。NAFCA のキャラクターの「ほくと」ちゃんと「影マル」くんで。今は絵コンテを作っていて、これを30カットほどの映像にする予定です。私たちは声優だから声を当てるのも自分たちでできますよね。

この絵コンテからレイアウト、原画、動画になっていく工程をすべて見せることで教科書を作っていきます。

中学生が読んでも分かる難しさにしようと思っているんです。

Q. じゃあ僕みたいな外国人でも読めるかもしれない(笑)。

福宮. 漢字さえ読めればきっと分かります。

東京にいるとなんでもできるんですが、地方に住んでいる人はアニメを学ぶ機会がなかなかないんです。そもそも専門学校にいくまでアニメに触れられる機会がない。私にも小学生の子供がいるんですが、いきなり何十万円もかかるパソコンや液タブなどの機材を揃えたりするのはハードルが高いんですよね。アニメーター検定があれば、紙とトレス台があればできますし、親がまず子供に検定を受けさせるという選択肢ができます。何時間も机の前に座って絵を描けるかという、適正も見ることができるんです。子供の可能性を広げることもできるし、ある程度絞ることもできるという、両方の使い方ができます。

Q.そこで描いたものがポートフォリオになるかもしれないですね。

福宮.そうしたいですね。

もし、アニメ制作会社の採用で、同じくらい描けて人としての印象もいい人が 2 人いて、どちらを採用すべきか採用担当者が迷った場合、アニ検を持っているという点で採用してほしいんですよ。アニ検を持っているというだけで採用するということはさすがにないと思うんですが、迷った時の判断材料の一つになってほしいです。

さらに時間が経ってアニ検が浸透したら、動画の最初の単価を取得した級によって変えることもできるようになってほしいです。例えば 3 級を持っていたらギャランティを 250 円ではなく 300 円から始めるといった感じです。それには企業の協力も必要で、この検定が力を持たないとできないことですが。

「アニメって、舐められてるんだなあって絶望します」

Q. 西位さんはアニメーターや作監として、現在のアニメーターに足りないものは具体的に何だとお考えですか。アニメーター検定が必要だと思った背景を知りたいです。

西位. 何が足りないって……例えば、あなたが SNS で絵をアップしてたらアニメの制作会社から仕事が来る状況ですよ。

Q.(苦笑)

西位. アニメを描いたことのないあなたに何が足りないですかって話で(笑)。

福宮.(笑)

西位. そういう何も分からない人のためにやるんです。

Q. はい(笑)。

西位. そういう人が「誘われたからやってみよう」という気持ちだけで仕事をやっても、仕事の仕方が分からないか現場のスタッフに怒られてしまうんです。でも、本人からしたら「制作会社に誘われたからやっただけなのに、なんで?」と思いますよね。

Q. SNS で「アニメーターです」と書くとオファーを貰えるというのは海外の人ではよくあるんですが、日本人にもあるんですか。

西位. よくあります。おそらく、国内ではもう仕事を発注しきれないから、制作進行は頑張って翻訳サイトを使って海外の人にオファーしているんだと思います。

Q. 制作進行さんや演出さんも最近は SNS での声かけは禁止されているんじゃないですか。

西位. 禁止にはなっていないです。まだそういうことをする人はいて、SNS を見ていると、「今日二原やれる人募集中」というツイートを見ます。背に腹は代えられない制作進行の気持ちも分かるんですが、それで未経験者が来たら対処できないですよね。

福宮. 私でも応募できてしまう。

西位. そうなんですよ。やったことはないけど、やらせてもらえせんかという人がいっぱい来るらしいんです。アニメって、舐められてるんだなあって絶望しますよね。

福宮. 教える手間が大変ですよね。

西位. そうなんです。だから、アニメーターのレベルの底が抜けてきています。

さらに、そういう人たちが仕事をやり続けることで技術を持たないままキャリアを積んでしまうんですよ。こういう人たちが日本のアニメーション業界の中間層になったらもう終わりなんです。決して本人たちのせいではないとは思うんです。使い続けた業界全体の問題です。また、正しい基礎知識を学ぶ機会もなく不安だという声もききます。それもあって、アニメーター検定を始めました。だれもがアニメを勉強する機会を公平に持てることが大事だと考えています。

基礎を勉強してから仕事を始めるのであればいいですが、仕事を知らないでいきなりプロの舞台に立つのは集団作業であるアニメにおいては、リテイクが増えるばかりなので止めて欲しいというのが一番です。せめて検定の内容くらいはリテイク防止のためにも知っておして欲しいという内容をみんなで詰め込んでいます。

そもそも、今は各タイトル、作品、話数に対する責任者が不在なんですよ。そこが一番の問題です。もちろん、そうではない話数、タイトルもあります。しかし、多くの作品で時間がなくなると作監が 10 人、 20 人と増えてくるんです。こうなると、誰が責任を持って作画をチェックしたのか分からなくなってしまいます。とりあえずカットが上がったというだけで、映像フィルムとしての作画の責任者がいないなんて、異常です。

Q. よく若いアニメーターさんが SNS で「このカットは僕が担当しました」と言っています。アニメーターが「これは自分が担当したカットです」と言うことで責任を取る形にはなっているのではないでしょうか。

西位. SNS でそういう発言があったとしても、そのカットは誰かが直しているかもしれませんよね。全部直されているかもしれないです。とにかく、責任の所在はそれだけでは分からないです。

素性のよく分からない人が匿名でそういう発言をしているのを見たら、信用できません。「どこまで本当に君の?」と思ってしまうものもあります。

また、一番問題なのは、SNS で「自分がやりました」と発言することがゴールになってしまっている若い人がたくさんいることです。モノを作る、フィルムを作る、1 本のアニメを作る、人を感動させるといったことよりも「俺がやったんだ」という強い自我が上位に来てしまっている人が結構いるらしいんです。それに関してはみんな困っていると聞きます。そういう人は海外の人にもすごく多いです。

福宮. それは声優も一緒ですね。「私いい声でしょ」「俺いい声だろ」と、ひけらかす演技をするから、会話が会話になっていないんですよ。「隣にいるけど、なんで前向いてしゃべってるの?」と思ってしまう芝居になってしまうんです。コロナ禍で全員がアフレコに参加できなくなり、自分だけで収録する抜き録りが増えてしまってから増えました。まるで良い声発表会なんです。

モブキャラの役なのに主人公より目立つようにしゃべって自分の爪痕を残そうとするんですよね。その気持ちは分かるんですが、それよりもシーンを成り立たせることの方が大事です。そういうことが分かってもらえないんですよ。

「このままだとヤバいなと感じています」

Q. 先ほどの責任の話に対して、昔の作品と最近の作品を比較すると、スタッフの人数が全然違うと思います。例えば、昔の作品であれば、話数 1 つあたり作監は 1 人で、原画マンは 4 人から 8 人くらいですよね。でも今は作監が 20 人、30 人くらいいて、原画マンも 50 人くらいいます。その変化はどのようにして起きたんですか。

西位. まず、一番大きいのは仕上げがデジタルになったことだと思います。そもそも、昔のセルアニメーションでは 4 枚以上絵を重ねられないんです。しかし、デジタルでは重ねる絵の枚数に制限がありません。

仕上げの制限がなくなると、アニメーターの自由度が増え、1カットあたりにかける労力が必然的に重くなります。アニメーターとは基本的には動かしたい生き物なので。そうすると、以前の人数では手が回らなくなってしまいます。

さらに、視聴者はそうやって生まれた複雑な画面や枚数を無尽蔵に使ったアクション作品を見慣れて、それが普通だと思ってしまいます。だからクリエイター側も余計にどの作品だろうとそこまでやらないといけないと思ってしまうんです。

仕上げのデジタル化がすすんで、しばらくしてから、いつの間にか作画の枚数制限がふわっとなくなりました。クオリティ低下を防ぐため、作監だけではなく総作監というセクションも当たり前になりました。ここでまたスケジュールを引っ張ることになり、それを巻き返すためにさらに多くの人手が必要になりました。

そこに配信の波です。無尽蔵に作品を流せる媒体と、世界的なアニメの人気に推される形で作品数が爆増します。

そして、デジタル技術の発達で今度はアニメーターがデジタルで作業できるようになりました。アニメーターが東京を離れ、地方に戻っても仕事ができるというリットもありますが、SNS からアニメを知らずに参入する人も爆増しました。いろんな原因が絡み合って崩現場が壊してるんですね。

総作監制度は本当に罪深くて。下手すると担当した原画マンに戻す頃には最大で 3, 4 〜半年ヶ月先になってしまう。その頃には担当した人は違う仕事を取ってしまって、原画を戻されても作業できなくなってしまうんです。そうなると違う人に仕事を出さないといけないので、さらに人数が増えます。こうして、2原制度は当たり前になっていき、1 カットあたりに携わる人数が増えてしまった。こうした中で、チェックバックをもらうといい育成の機会を損失したことが一番のデメリットで、今後アニメ業界の致命傷になっていくと考えられます。昔は枚数制限もあり、作監は一人、総作監はいない、見たことあると思いますが、原画も相当絵もラフですよね。

Q. そうですね。でも今は原画マンがよくラフ原やレイアウトだけをやって、二原は別の人が担当していますよね。

西位. そうです。

昔は原画マンがラフで描いて、ラフで仕上げたものを動画の人が清書するから成り立っていたけれども、今は動画の仕事を海外に発注してしまって、国内にはほとんどいなくなってしまったんです。

そうしたら、動画の技術低下が止まらず、原画も動画のように丁寧に描かないと線を拾えないという話になり、どんどん清書の工程が上流に上がってきているんですよ。総作監まで丁寧に描いてくれと言われだす始末です。そういう状態になると、より原画の戻しが遅くなるから、また人が増えますよね。

しかも、原画の人たちの中にも動画経験がないため、きれいな線で描かれたレイアウト修正絵しかトレースできない人が出てきています。そうしたら一部の人が丁寧に描くしかなくなってきている。そういう、動かすどころか、線すら拾えない人がアニメーターに続出している。結果。一部のできる人に負荷か偏る。そういう負のスパイラルを改善するために動画の検定をやってラフな原画にも対応できるプロを増やそうという試みもあります。

原画というのは芝居を作るセクションであって、均一のカチカチ線で絵をトレスするのが仕事ではありませんからね。

Q. 確かにプロの動画マンがいないという話はよく聞きますが、動画として残ってくれるようにするためにはどうするのがいいですか。

西位. ギャランティを上げるしかないですよ。

動画をやりたくてもお金がもらえないから辞めるという人はたくさんいて、そういう人たちを正社員で雇用してほしいと思ってます。動画というのはただ線をツールで引いて間を埋める係ではありません。アニメの重要なセクションです。制作会社が動画からの人材育成を諦めてしまったから、どんどんどんどん手が遅くなり、仕事が進まなくなってしまいます。早く描く技術も動画の時に基礎を教わりますから。

Q.新人がみんな辞めてしまうという話もよく聞きますが、高齢化もあると思います。アニメーターの多くが年をとると、それが人材不足につながるという話をよく聞きますが、どう思いますか。

西位. これからそうなると思います。

日本のアニメが一番すごかった 1990 年代に活躍した人たちの年齢が、今 50 代なかばから 60 代です。この人たちが引退したら日本のアニメは10年もつかどうか、、、下の世代のなかには「きれいな絵でないとトレースできません」という人たちが多く育ってきているのでいよいよ作品がまわらなくなる。要するに手が遅いんです。

このままだとヤバいなと感じています。

私もこういう人材育成は自分のまわりでしかやってこなかったし、それでいいと本当は思っているのですが、今やらないともう業界の厚いベテラン層が引退してします。いま育成のシステムを作らないと、間に合わないんです。他にやってくれる人が誰もいなさそうだから、やっているというところはあるんですよね。

Q.それなのに、西位さんは NAFCA の役員ではないと聞きましたが。

西位. 私は NAFCA の手伝いをしています。NAFCA の理事は、アニメの方はヤマトさん、植田さん、北尾勝さんにやってもらって、私は一スタッフとして活動しています。教科書の絵コンテとかの仕切りなど、制作進行のような仕事をしています。

Q. どうして手伝いだけなんでしょうか。

西位. 組織に向かないからです(笑)。育成だけは言い出しっぺだからやるけど。

Q. 植田さんはベテランですが、NAFCA を今立ち上げるのは遅いのではないかと感じました。今はアニプレックスにもいらっしゃらないので、人のつながりはあるとは思いますが、影響力はもうないのではないでしょうか。

西位. そうですね。インボイス反対活動の中で、声優さんたちのエグい能力をみてやれると思ったのではないでしょうか。私は思いました。アニメクリエイターは総じておとなしいので、自浄作用も期待できませんでしたが、声優さんたちと組むことで新たな価値観を生み出せるかもという話はアニメ会(インボイス活動有志)の頃から出ていました。

植田さんは大変多くの人脈はありますが、会社に対してダイレクトな影響力はないと思います。しかし、植田さんがいないと話を聞いてくれる会社もありません。そこは積み上げてきた人望と責任感なのではないかと思います。NAFCAは奇跡的なバランスで成り立ってます。

Q. どうして影響力がないのに NAFCA という組織を作れたんでしょうか。

西位. 植田さんはアニプレックスを辞めた後にアニメ業界をどうにかしたいということで活動はされてたんですよ。動画協会の理事になるといった活動をされてたんですがあまりうまくはいかなかったと聞きました。

そのころ、私はアニメーターを 200 人ほど集めて税理士さんによる確定申告の説明会と交流会を開催していました。それを植田さんが聞きつけて、私に連絡してくれたんです。その時に「一緒になにかできたら」と話していたんですね。それが 2018年です。しばらくその話はふわふわとしていたんですよ。

それから、私の YouTube チャンネルで植田さんに出てもらって、アニメ業界がなんでこんな風になっているのかを説明もらうという活動を何度かやっていました。しかし、多くのファンやアニメーターは SNS では文句を言うけど、アニメ業界がなんでこうなってしまったのかといった歴史的なことにはまったく興味を持たないんだなということがわかりました。

こういう活動をしてもあまり自浄作用に期待がもてず、意味がないのかなと思っていたところにインボイス制度を導入するという話が来たんです。アニメ業界だけではなく、数多くの日本の自営業者に悪影響がでるというのに、アニメ業界ネタでないと、インボイス制度自体を報道しというマスコミの問題もあり、植田さん、ヤマトさん、北尾さん、私とで手分けして様々なメディアに出るようになりました。

そんな活動をしていく中で、声優さんたちも同じような問題を抱えていることを知り、アニメにはもっとたくさんの問題が眠っていることを知りました。

植田さんなんて、のんびり老後を送ってもいいのに、我々現役のためにが火中の栗を拾ってくれたんです。植田さんが元々やりたいわけでは決してなかったと思いますよ。色々なところで「元アニプレックスの植田が何を今更」という発言を見るたびに、私の方が申し訳なく思っています。植田さんはやむにやまれずやっているというのが一番実態に近いです。つまり、植田さんがNAFCAを作ったというより、現場の人間が泣きついて理事長をお願いしているというのが正しいです。

NAFCAが成功したら上井草に銅像を立てるレベルで感謝してます(笑)。

「お金はあるけど人はいない状態になるんです」

Q. はい、わかりました。アニメータースキル検定の話に戻します。アニメータースキル検定にスタジオの協力はどのように得ようとお考えですか。

福宮. スタジオもアニメ業界がこのままだと危ないという思いは私たちクリエイターと同じです。だけど育成をする余裕はないんですね。

Q. アニメーターの新人育成の責任は本来スタジオが持つべきものですよね。どうしてそれができないんでしょうか。やはりお金の問題でしょうか。

福宮. お金の問題だと思います。余裕がないんですね。昔から制作スタジオは自転車操業になっています。

制作スタジオはグロス請けといって、1 シーズンの制作費の中から 1 話単位で割り当てられた仕事を受注します。その会計がざっくりなんです。スタジオはこのぐらいでいけるだろうという勘で仕事を請けてしまう。しかしクリエイターはクオリティを 高めようとします。

そうして気がついたら赤字になってしまうということがよくあるんですね。まずそこをどうにかするべきだと私は思います。

しかも作品が当たるかどうかも分からないんですよね。例えば今の作品が赤字で次の作品が黒字だったら、それで赤字の分を補填する。今の作品が黒字だったとしても、次の作品が赤字になるかもしれないという状態で、スタッフにボーナスを払う、新く人を雇うということができません。

本当に余裕がなくて、新人の育成ができなくなってきているんです。

西位. その上、教えられる人がいないんです。上手い人は常に最前線で働いているから忙しいんですよね。そこに「教えるために仕事を止めてくれ」とはなかなか言いづらいです。

本来であればそういう人に育成担当込みで仕事を回すべきなんですが、歴史的にアニメーターの育成は先輩たちの善意で成り立っていて、無償で仕事を手伝うことによって教わってきたというのがあり、なかなかそこから抜け出せません。

Q. それを実現するためには、アニメーターがスタジオにいる必要がありますね。でも多くのアニメーターはフリーランスですよね。そうするとスタジオで先輩に会えません。それなら、みんなが社員になればいいんじゃないですか。直接元請けの原画マンから育成してもらえるんじゃないでしょうか。

西位. 私もそう思います。ただ、制作会社にとっては作品を作るために必要な人数をすべて社員にすることは、現状どうしても難しいんです。

それに、アニメーターの性質も多種多様です。「夜型で朝起きるのが嫌」「今日やることを会社に決められるのが嫌」という人が多いんです。ずっとフリーランスで自由に生きてきた人間にとっては今から会社に指示されるのはかなりきついと思います。それが合う人はいいと思うんですが、嫌だという人も多いです。ベテランの中にも「社員なんて絶対無理です」という人もいます。

また、一番大きい理由として、作品を選べなくなるというのがあります。例えば、今日『おじゃる丸』をやって明日は『推しの子』をやれと言われるとつらいですよね。特性が分かれているアニメーターも多く、「『おじゃる丸』みたいなのだけずっとやりたい」「『推しの子』みたいなのだけずっとやりたい」と考えています。もちろん、いろんな作品をやりたいという人もいます。多くの会社は色んなタイトルを回しますよね。男の子、女の子向けのタイトルもあれば、外国向け、リアル系のタイトルもあります。そんな中で「社員だから今日はリアル系やってね」と言われ、それが終わったら「今度は萌えやってね」と言われると、なかなか対応するのが大変です。会社のカラーが決まっていて、「こういう感じの絵作り以外やらないです」という方針ならいいんですが。

そんな中で他の会社が自分の好きな原作をアニメ化するという話を聞いたら、やはり社員を辞めてしまいます。そういう問題は大きいです。

Q. さきほど年齢の話をしていましたが、もし社員だったら歳を重ねれば保険金や年金をもらえます。そういうことも大事ですよね。

福宮. 大事ですよ。

西位. 年をとってから仲のいい人たちと一から会社を立ち上げる人たちはいますね。

そうすれば自分でルールを決められます。

Q. それこそ問題じゃないですか。小さい会社がいっぱいあっても、小さい会社ではお金がないので何もできません。大きい会社は大きい会社で問題がありますが、大きいからお金がありますよね。

例えば MAPPA は大きくなったことで、製作委員会を使わずに制作していますし、給料が上がっています。それは大きい会社だからできたんじゃないでしょうか。小さい会社だとそれはできないでしょう。

西位. 小さい会社は、人はいないけどお金はある場合があるんですよ。「この作品やってね」と言われて委員会からお金だけもらって会社を立ち上げてしまう。でも「人がいない。どうしよう」という状態になるのはよく聞く話ですね。

作品が多すぎて、例えば大きい制作会社に持って行っても受けてもらえない。それなら現場プロデューサー経験者に新しい会社を立ち上げさせて作ろうと。

なのでお金はあるけど人はいない状態になるんです。

福宮. そもそも日本の社会がすごく小さい会社の集まりで成り立っているんですよ。だから新しく小さい会社ばかりが出来るのも、そんなに悪くはないと思ってはいます。ただ、インボイス制度でいじめられるので問題ではあるんですが。

西位. そうですね。

福宮. 最近、日本の政府が小さい企業をどんどんまとめて、大きい企業だけを残そうとしているように思うんですよ。日本は江戸時代からずっと小さい商業で成り立ってきてるのに、なんでそんなことをしようとしてるのか私たちにはよく分からないです。

Q. アニメ業界も昔からそういう感じなんですね。

福宮. そうですね。

Q. スタジオにはお金がないという問題は、製作委員会制度にも一因があると聞きます。作品が成功してもスタジオにはお金が入らないということです。

福宮. そうなんです。

今、多くのアニメが製作委員会方式で作られています。テレビ局、グッズ制作会社、映画の配給会社といったところがお金を出して、その出資した割合で利益を分けていくんですね。そこでも制作スタジオはお金がないので、最初に製作委員会に出資できず、戻ってくるお金も少ないという状態になっているんです。

でもそれはやっぱりおかしいから、IP を一部でも制作会社が持てるようにしていく方がいいんじゃないかという話があります。

例えば業界で育成を前提としたモデル契約書を作ってその通りの現場を作れたら助成金を出すとか、そんな施策も必要かもしれません。そういう働きかけも NAFCA としてはやっていきたいです。

Q. 製作委員会に関してですが、問題はお金に関してだけではなく、作品の数が多い点もあると思います。

西位. そこはあるんですが、私たちから作品の数を絞れとはなかなか言えないです。

当然、デスクやプロデューサーには「作品を減らしたら」とは言います。でも「会社が取ってきちゃう」と言われるんです。この「会社」がどこの誰を指すのか私にはよく分からないですが。

どの会社も仕事はあればあるだけキャパオーバーしても取って来てしまうんです。

私は制作会社が作品数を絞って予算を上げる方向に働いた方が良いと思います。予算を上げる、二次利用料をもらう、というやり方になって欲しいです。やめてほしいです。でも、その会社が請けなければ新しい会社が出来上がるだけで、結局人手がいなくなるんですよね。

私は制作会社が作品数を絞って予算を上げる方向に働いた方が良いと思います。お金がないからと無理に新たな受注をするより、予算を上げる、二次利用料をもらう、というやり方になって欲しいです。要するに、もう少し、一つ一つの作品に愛情を持って作ってほしいんですよ。

この間『東洋経済』のアニメ特集号が出ましたよね。あそこでも「アニメの制作会社がペコペコしすぎる」という記事が載っていましたが、まったくその通りだと私も思いますね。もっと対等に製作委員会と交渉してくれないと自分たちも困ります。

Q. お金の話に関してですが、コロナ禍で予算が少し増えたという話を聞きました。

西位. 予算は少しずつ上がっていると思います。

作品ごとにばらつきが出てきていて、高いものは 1 話 5000 万円、下手したら 1 億円に届く作品も出てきているという噂を聞いていて、反対に安いものは 3000 万円ぐらいでしょうか。しかし、下請け、またその下請けに出してしまうとどんどん安くなり、1000 万円ぐらいになってしまいます。

こういう外注の中抜きのシステムもなんとかして欲しいと思いますね。

Q. その下請けシステムこそが問題ではないですか。

西位. 問題です。ただ、これはアニメ業界に関わらず日本全国で行われていることです。だから、そこは国に言っていくしかないし、また政治の問題になりますね。

Q. 結局すべてはお金と政治の問題ですね。

西位. そうです。

突き詰めていくと結局、政治経済の問題になっていってしまうから「みんな選挙に行こうね」と思うんです。ただ、そこにたどり着くまでの流れをみんながあまり理解していないから「アニメ業界をどうにかしたいっていう話をしているのになんで投票になるの」と聞かれるんです。それに対して私たちが説明をする。そのリピートです。

「一緒に作っていく仲間だという気持ちがあるんです」

Q. 後でもっと政治の話を伺いたいと思いますが、その前はちょっと話を返します。ここまでアニメーターの話をしていましたが、声優さんの問題についてもお伺いしたいです。アニメーターの仕事は大変ということは海外にもよく知られているんですが、声優の方はあまり知られていないので。

福宮. 声優は事情が違うんですよ。アニメーター志望者は年間で 1000 人ぐらいと言われているんですが、声優志望者は 3 万人ぐらいいるんです。それくらい人気のある職業なので、問題の根底がまったく違うんですよ。

また、声優は 5% ぐらいの人気者が仕事の全体の 80% ぐらいをやっていて、残りの 20% を 95% が取り合っている状態なんです。芸能界はみんなそうだと思うんですが。だから、「声優」と言われる人たちがすごく貧乏だというのが問題の 1 つとしてあります。人気者に仕事が集まるからです。ある程度は仕方ないですが。

ただ、コロナ禍になってかなり状況が変わってしまいました。これまでは 1 話に出てくるキャスト全員が一緒に集まって収録をしていました。それがコロナ禍で人が集まることができなくなってしまったので、3、 4 人の小さいグループごとに収録をするようになったんです。

そうすると、今までは先輩のお芝居を至近距離で見れていたのが、見れなくなってしまったんですね。もう全然違うんですよ。逆に一人の拘束時間は短くなったので、ますます人気ものに仕事が集中するようにもなっています。

Q. 福宮さんがコロナ禍の話をされましたが、西位さんに質問です。アニメーターとスタッフにとってコロナ禍で何か変わりましたか。

西位. 一気にデジタルの人が増えましたね。中国のアニメ会社の方もそう言っていました。やはり家で作業ができるからだと思います。

ただ、レベルは上がっていないですね。育成が滞ってしまうという問題があります。みんな会社に来ないから先輩の上がりを見て直接指導をうけられれないんです。そうするとどうやって勉強すればいいか分からないですよね。

まとめると、良いところは在宅でできる仕事として人材不足解消の活路があるかもれない、しかしリモート育成は大変、といった感じでしょうか

Q. はい、ありがとうございます。NAFCA にはアニメーターや監督の他に声優もいると思います。どうやって2つの仕事の利害を一致させるんですか。

福宮. そこは利害を食い合うことなく、一緒に作っていく仲間だという気持ちがあるんです。ただ、アニメーターと声優は普段、会うことがないんですよ。打ち上げでしか会わず、そこで挨拶するだけの関係なんですね。

それはおかしいと思うんです。もっと交流できれば、例えば私が NAFCA のキャラクターのほくとちゃんを演じているとしたら、その時の私の動きを見て、アニメーターがほくとちゃんの動きにそれを追加してくれることもあり得るわけですよね。

声優とアニメーターが普段から交流できれば、そういうことも可能ですし、お互いのモチベーションにもなります。だから交流をどんどん増やしていきたいです。NAFCA でもそういう活動をやっていこうと思っています。

Q. 先日、NAFCA のキックオフイベントに伺いました。

多くの声優さんやベテランクリエイターがいらっしゃいましたが、若いスタッフや制作進行、背景、撮影といったスタッフは見かけませんでした。そういった方々は NAFCA の活動に参加しているんでしょうか。

福宮. もちろん、そういう人たちとも繋がってはいます。今回は 1 回目だったので、分かりやすく、かつ有名な人に出演してもらう方が説得力があるだろうという意図がありました。

制作さんや撮影さんなどには、今後 NAFCA の方で計画している学生向けの職業紹介セミナーで講演してほしいとお願いをしています。

Q. アニメーターの問題の他に、制作進行の問題があると思います。時間がない、アニメーターの腕を評価できない、誰でもなれてしまうといった問題です。どうすれば制作進行の育成や労働条件の改善ができるんでしょうか。

西位. とにかく作品が多すぎです。制作会社がキャパシティオーバーするまで仕事を請けてしまうから、制作進行が常時何本も掛け持ちする状態になってしまっています。それはパンクしますよね。

しかも給料が安いと聞きます。それでは人が育たないですし、辞めてしまいますよ。

Q. 例えば NAFCA で制作進行向けのスキル検定を作ることは考えていますか。

福宮. アニメータースキル検定の中に知識を問う内容があって、そこは制作進行も受けて欲しいです。受験するとかなり意味があると思います。

西位. 制作進行は最終的に 2 つに分かれます。プロデューサー・デスクになるか。演出になるか。

プロデューサー・デスクになった場合、色んな部署から「ここどうしたらいいの?」と聞かれます。そういう時に工数が分からないと困ります。もし制作進行を始める前にアニメータースキル検定を受けておけば、ある程度素材の組み方や作り方を知ることができます。それが分かっていないと、工数やそれにかかるコストが分からないプロデューサー・デスクになってしまいます。

制作にかかる手間を最初に勉強しておくことは絶対にやっておかないといけないことであって、やっていないこと自体が問題だと思っています。

Q.最後に AI の問題について質問させてください。アニメ制作に AI が使われることは特に声優にとって影響があると思います。でも最近、WIT studio が AI を使った短編を制作しました。

西位. コメント欄に海外の人が多くて「やめろ」というコメントを見たので、不評なんだと思いました。私も意外でしたが、あまりそういう反応が来るとは思っていいなかったんじゃないかとは思います。

Q. そういったアニメに AI を使うことについても NAFCA は反対するんでしょうか。

西位. すごく難しい問題です。

今、NAFCA で AI に関するアンケートを取って精査中で、もうすぐ分析結果を発表する予定です。私の個人的な意見としては、みんな AI の発展が早すぎるところが怖いんだと思います。みんなついていけないだけで、一つ一つ段階を踏んでいけばめちゃくちゃなことにはならないんじゃないでしょうか。最近は AI を悪用する人が多いから、それに対する拒絶もあると思います。

私個人的には、アニメーションの中で手描きで補えない部分に活用できるのであれば AI を使うのもいいと思います。今で言えば CG レイアウトのような感じです。

ただ、他人の仕事を奪うことに関してはもっと慎重になってほしいですね。

Q. 政治のことを増れる前に、ジェンダー不平等やセクハラについてちょっと伺いたいと思います。最初は、声優界には、賃金格差などはありますか?

福宮.  アニメと吹き替えに関しては日本俳優連合が定めるランク制度があるため、ギャランティそのものに格差はありません。それ以外、ナレーションやTV番組への出演などは都度交渉ですので、芸能界と同じような感じだと思います。

個人によって年収の差はかなり大きくありますが、それは芸事の世界なので当然だとみんな受け止めていると思います。悔しかったら頑張って売れるしかない、というマインドです。

ちなみに、去年VOICTIONがとったアンケートでは声優の4割が年収100万円以下、7割が年収300万円以下で、1000万円以上稼いでいる声優は4%程度でした。

Q. アニメーターの場合は出来高払いなんですが、それなのに賃金格差ありますか?

福宮.  作品拘束という仕組みがあり、上手い人ほど高値で拘束されます。他の仕事をとらず、この作品をやってね、という意味で作品が終わるまで月極で払われます。

そのため、単価で仕事をする人との差が出ていると思います。拘束なしで食っていくのは至難ですから、早く上手くなってアニメ会社と交渉するのが一般的には良いと考えられています。

Q. アニメ業界は、女性演出や西位さんみたいな女性作監、キャラデザイナーがたくさんいますが、女性作監やプロデューサーがあまりいない。それはどうしてですか?それを変えるにはどうしたらいいのか?

福宮.  体力の問題が大きいと聞きました。

深夜のV編や、リテイク対応など、なかなか年をとってくるときつい。特に子供ができたらもう全く無理ですね。そのため、プロデューサーは体力お化けの男性が多いです。まずはそのような事態にならないよう、スケジュールが破綻しない作品作りを心掛けるべきだと考えます。

Q. セクハラは声優・アニメ業界の問題だと思いますか?

西位. そうだと思います。私自身はないのですが、周りの話を聞く限り、問題だと思っています。

福宮.  もちろんそう思います。顔出しの芸能界ほどあからさまではありませんが、声優も芸能界の一部。切っても切り離せない問題だと思うので、対策が必要だと思います。

Q. MeTooやジャニーズの事件で、日本でも性的虐待に対する意識が少しずつ高まってきていると思います。例えば、映像業界の「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」という組織があります。声優・アニメ業界には、性的虐待ということの意識がありますか?

西位. アニメーターに限って言えば、フリーランスで仕事もたくさんあり、逃げやすい環境なので、そこまで大きな性的虐待は少ないように思います。どちらかと言えばストーカー被害に困ってる人が多いので、なんらかの対策が必要です。男性のほうが無自覚なことも多いので、こういうことはやってはいけないと早いうちに教えるのも大事だと思います。

福宮.  声優業界は顔出しの業界ほどあからさまな虐待、セクハラが横行していることはないのでその意識、対策も緩やかかもしれません。とはいえコンプライアンス遵守が叫ばれる世の中ですので、各事務所が所属声優に対する注意喚起や契約書に禁止事項として入れるなどの例もあります。

Q. セクハラの被害者が自分から声を上げることはほとんどありません。NAFCAのような組織が、被害者が自分たちの経験を語れるような安全な環境を作れると思いますか?

福宮.  セクハラやストーカー、SNSでの誹謗中傷などについては専門家を読んで対策セミナーなどを開きたいという話はしています。アニメ業界は人数が少ないので、こう言った問題に対しては、別の団体や専門家とも連携していくのが良いのかなと思いました。

「これはを歴史として教育していかないといけないんです」

Q. ありがとうございました。先ほど政治の話が出ましたが、NAFCA はロビー活動をするお考えなんですか。

福宮. します。

Q. 具体的にどういう形でやっていこうとお考えですか。

福宮. 先ほど少し触れましたが、これから文化庁の人に会いに行きます。もちろん政治家にも会いに行く予定です。

支援を求めるのはもちろん、海外にアニメを輸出していく「クールジャパン」のような政策についての理解も求めています。今の「クールジャパン」はピントがずれているんです。

クールジャパンで一番儲かったのがラーメン屋さんなんですよ。なんでそんなことになっているのかよく分からないですよね。ちゃんと業界のことを理解している人たちにお金を与えないと一番下のアニメーター・クリエイターまでお金が下りてこないんですよ。だからそこの仕組みをちゃんと分かって欲しいんです。

だからといって私たちにお金をくれと言っているわけではありません。ちゃんと育成をやっているところもあるので、そういう活動をやっている人たちの方を見て欲しいんです。もちろん、ただお金をあげればそれだけで育成してくれるわけではありません。そこはちゃんと仕組みを考えないといけませんし、そういうところも言っていかないといけないです。

Q. クールジャパンは経済産業省でしたよね。

福宮. そうですね。

Q. 今度文化庁へ行くと聞きましたが。

福宮. そうですね。どちらにも行きます。アニメーションの文化として育てていくところは文化庁や文部科学省です。アニメをもっと海外に輸出するという話になると経済産業省です。クールジャパンは後者ですね。

日本は縦割りでややこしいんですよ。似たような事業でも管轄省庁が違います。その間でたらい回しにされることもあるかもしれませんが、私たちも勉強しながら政治家の人に話す活動をしていこうと思っています。

Q. 失礼かもしれないですが普通の政治家はアニメに興味を持っていないように思います。

西位. 意外にも、興味がある人は多いですよ。

福宮. 表で言っていないだけでたくさんいますよ。

Q. この質問も失礼かもしれないですが、もし NAFCA が国からお金を貰えるようになったら、そのお金を不正に扱う危険はないのでしょうか?

西位. そこは、できるだけ情報をオープンにすることで対処していこうと思っています。今はまだこの活動でお金が発生していないのでボランティア組織なのですが。いずれは正社員やアルバイトも雇ってガンガン回していきたいと思っています。

組織としては、年齢キャリアに関係なく今のところすごく公平に回っていると感じます。週に一度打ち合わせがはじまると10人以上で3、4時間。誰もが公平に発言できる環境になっています。とにかく誰かに権力が集中することだけは阻止しないといけません。それはみんな気にしていて、とても慎重になっています。NAFCAに関しては、隣接してるとはいえ、アニメの現場と声優というバランスもよく、お互いに権力監視の役割も持てると思っています。インボイス活動のなかで権力とおもだち利権のバカバカしさだけは痛感したので。しばらくは大丈夫かなと。

Q. 政治活動というと、西位さんはもともと労働組合が必要ではないかといっていますが、 NAFCA と組合はどう違うんですか。

西位. すごくいい質問ですね。

Q. 海外ではよく、NAFCA は組合ではないかと言われています。

福宮. 組合ではないんですよ。

西位. NAFCAは一般社団法人ですから、組合ではないし、ストもできせん。

先ほどの話とも関係しますが、昔からアニメーターたちはあまり一致団結しないんです。声優さんたちの場合、団体交渉に成功して給料のランク制を実現させています。しかしアニメの場合、なかなか実現しないんです。子供の頃から絵を描く以外のことをしたがらない人たちが多くて、団体行動が苦手なんですよ。人が集まらない。どうせダンピング、スト破りするだろうと言われています。

でも、SNS ではみんな文句だらけですね。もはや怨嗟です。だから色々考えていることは分かるんですが、だからといって行動はしてくれないんです。

今回のインボイス制度の件もあって、私は「黙ってたらひどい目にあっちゃうんだよ」というのを若い世代から周知していきたいんです。「絵を描くだけが俺の仕事です」というカチカチな考えになる前の頭の柔らかい学生のうちからネットワークの構築をしていってほしいんですよ。「あなたたちの先輩たちがアニメを描くこと意外、何もしてこなかったからこういうことになっちゃったんです。みんなはちゃんとやりましょうね。税金も勉強して、節税して、確定申告をしっかりとしましょうね。地域の集まりにもたまには顔を出しましょうね、アニメ以外の趣味やコミュニティをもって社会と繋がろうね」そういうことを伝えたいです。

そもそも若い人たちの方が労働環境に対して権利を主張するんですよね。もし主張するのであれば、労組としてまとまって戦わないと勝てないんですよ。そういう仕組みになっているし、これは歴史が証明しています。るし、人類はずっと権利交渉をギルドを作ってやってきたんですよ。これはを歴史として教育していかないといけないんです。

福宮. 今は戦いを恐れる若い人が多いんですよ。でも、戦って今の権利があるわけです。

まずはそういう歴史を知ってもらうところから始めないといけません。それをする前からいきなり「労働組合です」と言っても誰も来ないんです。

だから段階を踏まないといけないんですよ。

ただ、「戦うのが嫌い」という雰囲気があるのはいい時代だと思います。フランスではよくデモやストライキをやっているので、フランスの方には分かりづらいと思いますが。

西位.『ベルサイユのばら』を再放送すべきですよ

福宮. そうそう。海外の労働運動といえば、ハリウッドのストライキは私たちにインパクトがありました。SAG-AFTRA の人に日本に来て演説してもらいたいくらいです。

西位. 「こんな先輩欲しかった」って私が泣きそう(笑)。

福宮. 俳優の中にはハリウッドのストライキすら知らない人がいるんですよ。そういう情報感度が低い人もいるから、しっかり伝えていかないといけません。

Q. 結局、時間の問題ということですか。

福宮. そうです。時間の問題ですね。フランスの強さをぜひ日本に持ってきて欲しいです。

Q. はい。頑張ります。

福宮. お願いします。

このインタビューは、全文を無料でご覧いただけます。なお、このような記事を今後も出版できるように、ご支援をお願い申し上げます。

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