沓名健一は、アニメ業界において常にオルタナティブな存在である。ウェブ系の代表的なメンバーである沓名氏は、同世代と別の訓練を受け、デジタルのの技術を経験してアニメ業界に入った。アニメーター、作画監督として15年以上のキャリアを持つ沓名氏は今、次のステージでオープニングアニメの演出を手がけることになっています。これまでの『ぶらどらぶ』『火狩りの王』『魔法少女マジカル・デストロイヤーズ』のオープニングには共通するモチーフがあり、沓名氏にお会いして作風の秘密とともに詳しくお話を伺いました。

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「自分の作品でやっているような色合いが単純に一番美しいと思って作っています」

Q. 沓名さんのオープニングアニメはアナログ撮影の感覚を再現するようにしていますよね。そのことについて説明していただけませんか。

現代のアニメ、過去のアニメ、色々な絵作りや色彩感覚があります。自分はそれらをあまり区別しないで見ていて、自分の作品でやっているような色合いが単純に一番美しいと思って作っています。懐古主義的な、昔はよかったねという感覚でやっているわけでもなく、古い感じが逆にオシャレだよねという感覚でやっているわけでもないです。

Q. では特にアナログ的なモノににこだわっているという訳ではなくて、単純に自分が好ましいと思う色合いを再現しているという意識なんですね。

そうですね。あの色みが単純に自分が一番美しいと感じています。

Q. そのことに関して、『ぶらどらぶ』の同人誌に『もののけ姫』の影響を受けたと書かれていますね。『もののけ姫』の魅力を説明していただけませんか。

『もののけ姫』は作中でちょうどデジタルとアナログが切り替わっていた過渡期で、アナログ技術が最も高まっていた時期と言えます。とくに物語前半の色彩が美しいです。

コロナ禍でジブリ作品のリバイバル上映をしていて、そこで『もののけ姫』を改めて映画館で見るという体験ができて、なんて美しいんだ!と感動しました。特に赤と緑と黒が美しい。それと同時に、この時代に使われていた色が今は使われなくなってしまっていると感じました。なので、それを自分は使ってこうと単純に思ったところから始まりました。

Q. 今、沓名さんだけではなく脇顕太朗さん[1]やちなさん[2]もアナログ感覚を再現したいと発言されています。それはやはり世代によるものでしょうか。

自分とちなさんはかなり年齢が離れているので一概に世代とは言えないのですが、昔の色合いを再評価する人が増えているとは思います。個人作家系で言えば、こむぎこ2000さん[3]も同じようなアプローチをしていると思います。自分はもう40歳なので、古いものを懐古的に思いで補正して良いと思う部分も無いわけではない。しかし、ちなさんやこむぎこ2000さんたちのような若い人たちがそれを良いと言っている、そっちの方がより信頼できると思います。

Q. 沓名さんの作品の話に戻ると、その色合いをどうやって作りますか?何か特定のソフトを使っていますか?

普通に背景を背景さんに描いてもらって、セルも普通に色彩設計さんに色を作ってもらって、それをらを撮影に入れる前にPhotoshop上で色味の調整をして、それを元に撮影をしてもらっています。

Q. 撮影はどなたが担当されるのでしょうか?

特定の誰かに常にお願いしているということではなく、『ぶらどらぶ』の時は、前から付き合いのある10Gaugeの松木さんという方に頼みました。依田さんという最近いろんなアニメで大活躍されている方がいて、その撮影をずっとやっている方です。『ぶらどらぶ』の時に松木さんといろいろ試行錯誤して、納得のいく処理を探りました。以後は、松木さんと作った方法論を使って、松木さんに頼まなくても、その作品の担当の撮影の方にお願いして、同じような画面を作れるようになりました。

「小林治さんは、アニメ業界の中の外国人のようなものです」

Q. ああ、それで毎回違うスタッフなのに変わらないスタイルを守っているですね。

このやり方は亡くなってしまった『BECK』の監督の小林治さん[4]のもとで働いてる時に、「なぜいつも治さんの色でフィルムが作れるんですか?」と聞いたら、全カットPhotoshopでいじるんだよって言われて。そりゃそうかと。

背景とセルの色をいじるということは、背景を描いた方や色彩設計の方の仕事を冒涜する部分が少なからずあります。だがそれでもやるのだ、という教えです。

小林治さんは業界の生え抜きというわけではなく、外から来た方なのでそういった事が大胆に出来た。アニメ業界の中の外国人のようなものです。自分の出自もWeb系と呼ばれるちゃんと下積みをやらないでスカウトされて勝手に原画を描き始めてしまうという、通常のルートではないところもあって、小林治さんのやり方にすごく感銘を受けました。

Q. 小林治さんは才能豊かな監督だったわけですけど、その他でもいろんなイベントを開いたりされていましたね。小林さんのイベントに行った時に小林さんがいたらいつも盛り上がっていて、、、すごく面白い時間でした。沓名さんはそんな賑やかなイベントを開こうと思いませんか?

イベントで若手とベテランを無理やり登壇させて会話させたりするなど、出会いの場を小林治さんがたくさん作っていました。また、アニメ業界の人ではない、イラストレーターを呼んだり漫画家を呼んだりミュージシャンを呼んだりDJを呼んだりしていました。何かそういう文化を混ぜていこうとしている小林治さんの志は、誰かしらが引き継がねばなとは思っています。

自分がそれを担えればと思ってはいますが、なかなか治さんほどの人との繋がりが自分には無く、実現できていません。

Q. 小林治さんは金田伊功ファンクラブの会長でもありましたよね。今一番詳しいのは沓名さんじゃないんですか。アニメーターの中で。

一番詳しいわけではないです。自分の好みには偏りがあって治さんほど手広く無いです。また、上の世代では井上俊之さんをはじめに詳しい方々がたくさんいらっしゃいます。

ただ小黒さんから、「沓名くんはアニメ研究家と名乗りなさい」って言われたので最近はプロフィールにそれも入れとくかみたいな感じで、そっちも頑張っていきたいと思っています。またアニメを語る文化に育まれたおかげで今の自分があるので、その文化が途絶えないようにしたいなとは思っています。

Q. 小林さんといえば『BECK』ですね、その制作当時の思い出を聞かせてください。

『BECK』の時は自分はまだ大学生で、りょーちも[5]と当時のハンドルネームで言うベスパさん(今は東映でキャラデザインとかやってる林祐己くん)が小林治さんからスカウトされて『BECK』の現場に入っていました。

それをすごい羨ましいなと感じながら、自分は大学の夏休みとかを利用して、数カット原画をやってみたりした程度の参加です。

当時はまだアニメの仕事は紙で書くべきだという固定観念が自分にあって。それで慣れない紙でやってみようと思って作業していたんですが全然上手に描けなかった記憶があります。

Q. 大学は美術大学ですか。

そうですね。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科に通っていました。アート全般、写真や映像を普通に勉強しました。

Q. 専門学校に行っていたアニメーターはみんなあんまり役に立たなかったと言ってるんですが、大学はいかがでしたか?

めちゃくちゃ役に立ってます(笑) いまだに大学の先生と交流も持ってますし、その母校で非常勤講師として働いています。

そこで学んだ色彩学とか美学とか美術の歴史とか、あとコンテンポラリーなものでインスタレーションだったり音響のアートだったり。その美術の教養が非常に役に立ってます。

また大学なので、一般教養科目もあります。そこで学んだ宗教とか哲学とか、めちゃくちゃ役に立っています。非常に有意義だったなと思います。今でも哲学の本とか宗教の本とか読むの好きなんですが、学生時代に眠いなと思いながらも受けた授業が取っ掛かりになっていたりします。

Q. 一番気に入ってる哲学者はだれでしょう。

ドゥルーズですね。本のタイトルを忘れてしまったのですが、ゴダール評をドゥルーズがしたものがのっている本があって、そのドゥルーズのゴダール評の内容にすごく影響を受けています。日本人だと千葉雅也さんに影響を受けています。レヴィ・ストロースも好きですし、映画監督ではゴダールも好きだし、かなりフランス好きですよ(笑)。

Q. 大学では何を教えていますか。

大学ではアニメーションを教えています。絵の動かし方を重点的に教えています。アニメーションの授業が週に2コマあって、その1コマを自分が教えていて、もう1コマは『マジカルデストロイヤーズ』の後半部分を担当してもらったアーティストの幸洋子さんにアニメーションの多様な技法を教えてもらっています。

「全部磯チルドレンでいいんじゃないかと思っています」

Q. 先ほどお聞きしたOPの作り方についてですが、同じウェブ系の山下清悟さん[6]も小林さんの影響を受けているのでしょうか?

自分ほど影響は受けていないと思います。どちらかというと山下清悟さんの場合は、磯光雄さん[7]だったり、新海誠さんなのかなと思います。アフターエフェクトを駆使したビジュアルの革新をリアルタイムに追っていた人、という印象です。自分と流派は今となってはだいぶ違うかなと思います。

Q. 磯さんと一緒に働かれてましたよね。Eddie Mehongのスタジオヤピコで。

Eddieさんはサテライト時代に仲良くしていました。僕が彼にFLASHでのデジタル作画を教えました。彼は今、NFTをやっていますよね。彼の紹介もあって、自分もNFTを近々やろうかなみたいな感じではあります。ただ、スタジオヤピコとは特に関わりはありませんでした。

磯さんとの接点は、自分が大学生の時にマッドハウスに見学に行った時にたまたま磯さんが通りかかって挨拶したのが最初です。あとは小林治さんのイベントで磯さんが来たときに一緒に飲んだり、いろいろお話を伺ったりしたこともあります。

Q. 磯作画ショックを受けましたか。

明確に受けてます。

Q. 何の作品ですか。

『雲のように風のように』と『ファイナルファンタジー』です。この二つが自分は特に好きです。あとは『ご先祖様』の第4話とか6話とか。キャラクターアニメーションが自分は好きです。

当然『ガンダム0080』から入門しました。いや、一番最初の影響は『エヴァンゲリオン』の劇場の2号機のバトルでした。自分とか山下清悟さんの動かし方のベースは磯さんです。磯さんは紙の時代に引き写し、要するにコピペして移動させてみたいなのをうまく使って省エネをしながらも複雑に動かす、という事をやっていて、そこに大きく影響を受けました。今、デジタルで作画する人の多くはその手法を使っています。特に海外のアニメーターで引き写しの上手な人がいっぱいいます。なのでもう全部磯チルドレンでいいんじゃないかと思っています(笑)。

磯さんは紙の時代から脳内はデジタルだったんだろうなと思います。自分と山下さんが出会って間もない頃、磯作画のそういう部分を語り合って意気投合した記憶があります。

Q. 磯さんの話をしましたけど、沓名さんのベースはうつのみやさとるさん[8]じゃないですか。

自分のベースはうつのみやさんでありたいと常に思っているんですが、うつのみやさんの雰囲気を出すのは一番難しいんです。なので、うつのみやフォロワーは途中でだいたい挫折します。うつのみやさんの良さを自分の手で再現したいと思ってずっとやってきたんですが、それがちゃんと実現できたという仕事は無いです。あまりに難しいので途中から意識するのを辞めました。意識していると、仕事を全然うまくこなせない状態になってしまい、すごく苦心した記憶があります。

今でも理想のアニメーションだし、今でもうつのみやさんの仕事が一番美しいと思っているんですが、どうしても自分にはできなかった、、、

Q. 外から見ると、うつのみやさんのアニメーションはシンプルで自由に見えるんですけど、実は逆なんですね。

非常に繊細です。本当に針の穴に糸を通すようなというレベルで原画のポジションとタイミングが非常に繊細です。

Q. うつのみやさんの作品で、一番気に入ってるのは?やっぱり『ご先祖様』ですか?

『ご先祖様』は当然ですけれど、『レジェンドオブクリスタニア』が好きです。劇場版とOVA版の最終話で原画をいっぱい描かれています。

劇場版では、なかむらたかしさん[9]の素晴らしい作画の後にうつのみやさんのシーンに繋がります。なかむらさんが動物のバトルを描いた直後にうつのみやさんのエフェクトシーンが来て、呪文を唱えると炎がバーッて出るのがあるんですが、、、最高のアニメです。

「完全な自由のものしか受けてない」

Q. ありがとうございます。では、オープニングの話に戻りましょうか。今、オープニングを仕事の中心とするアニメーターや演出は増えてますね。沓名さんはどうしてオープニング中心になったのでしょうか。

自分場合は、自分で作画監督までできる物に限定して受けています。近年はキャラ似せなど割とクライアントチェックが厳しいところもありますが、オープニングは本編と違ってもいいよねという監督が時折いらっしゃいます。そういった依頼のみ自分は受けています。しかし、それが許される作品がそんなに多いわけでは無いので、たまたま最近は何本もオープニングを作れましたがそれが続くかどうかは分かりません。

Q. つまり、オープニングの仕事は自由なものに限ってるんですね。

完全な自由のものしか受けてないです。

Q. 1人で働くことは好きですか。

自分は1人で働かないようにしています。なぜかというと、さぼってしまうからです。なので必ず人と仕事をするようにしています。人が目の前で待ってたらなかなかさぼれませんよね(笑)。

Q. 普段、何人で作りますか。

オープニングではその作品によって制作会社のプロデューサーにアニメーターを集めるのはお任せしています。なので作品によって人数はまちまちです。自分は、作画が上手くても下手でも成立するような絵コンテをできる限り描きます。作画が下手なら止めてしまえばいいし、上手かったらラッキーという感じで、それで成立するようなコンテが一つの理想です。また、編集を自分でします。編集段階で止めたりカットしたりスロー再生にしたり色味をいじったり、色々します。それもあって、作画にそこまで拘らないでもなんとか、なっている、、、はずです。

Q. 沓名さんのオープニングにはいつも同じモチーフが出てきますね。例えば花とか水とか魚とか。そのモチーフを説明してくださいませんか。

ここを全部つまびらかにしちゃうのは良くないって押井守さんが何かで言ってたんで(笑)そこは秘密にした方がいいんじゃないかっていう押井守の教えに従って黙っとこうかなと思います。でも基本的にフェティッシュです。

Q. 押井監督が犬を飼っているということは、沓名さんは金魚は飼ってますか?

はい飼ってます(笑)

Q. 『マジカルデストロイヤーズ』の幸さんのパートに金魚が出てくるんですね。

あれは自分のアイデアではないんです。幸さんに完全におまかせで作ってもらいました。

Q. その幸さんをちょっと紹介してくれませんか。

幸さんは実は大学の後輩でもあります。さらにそこから東京藝術大学の大学院に行って山村浩二さん[10]に師事しています。

自分が『こねこのチー』のオープニングの演出をやっていたとき、そのオープニングはCGのチーとアニメ作家をコラボレートするという趣旨のオープニングで、幸さんに声をかけました。そのオープニングでの仕事が素晴らしかったのもあって、当時自分が勤めていたMarza Animation Planetという会社に入社してもらい一緒にいろいろな仕事をしました。『マジカルデストロイヤーズ』の依頼が来て、曲を聞いたら、後半パートは間違いなく幸さんだと確信しました。

Q. それでは幸さんのパートは完全に自由だったんですね。

そうです。自分から何も言わず、完全に自由にお任せしました。商業アニメーションの技法とはまったく違うアプローチの映像が普通のアニメと混ざることによって、良い違和感が作れたなと思います。

Q. OPに音楽と絵を合わせるのはどうやっていますか?特別な方法、やり方がありますか?

普通にコンテを描くのではなく、こういうモチーフを使ったこういうカットは確実に必要になるだろうという絵をバーッとイメージボードのように書き溜めるんですね。

それを音にはめていって編集して、必要あればそのカットを変更しながら作っていくんです。音ありきで編集をするのでカットの尺とかも完全にコマ単位で決まった状態のビデオコンテを作って、そこから先いじることはほぼないです。

Q. 絵と音楽どっちが一番大事ですか。

そうですね。音楽は非常に大事です。例えば山下さんがやっているようなメジャータイトルでメジャーな曲で、というようなオープニングを自分は作ったことが無いです。そもそも、そういう依頼は来ません(笑)。そういった作品がもし来たら、今の自分の作り方では通用しないなぁと感じていています。良くも悪くもややマイナー感のあるタイトルが続けて自分には来ているので、なんとかやって行けているなと感じています。

Q. 音楽に負けたくないという気持ちはありますか。

勝ち負けという感じというよりは、その音楽と作品を最大限理解してその良さを引き出そうと考えます。アジャストしているつもりです。

Q. 好きな音楽じゃなくて、嫌いな音楽でも大丈夫ですか。

好きじゃない音楽でも大丈夫です。それでもできたりします。

Q. ですが何回も聞かないとですよね。

はい。当然好きな音楽でやれれば理想です。何回も聞きますし。自分の好きな音楽はメジャーなものでは無いというか、アニメとタイアップするようなジャンルの音楽ではないので、いつかどこかで個人的に好きな音楽に映像をあわせる仕事をやってみたいなという願望があります。

Q. それはどんなバンドやアーティストで考えていますか。

『チェンソーマン』の米津玄師のキックバック、あの曲のドラムを叩いている石若駿という方がいまして。『BLUE GIANT』でも叩いていて、超売れっ子ドラマーなのですが、彼が曲を書いているSONGBOOKっていうプロジェクトがありまして、ライブに伺った時にお話させてもらってアニメでMV作りたいよね、という話はしたのですが実現させられていません。あと、自分の大好きなアーティストで坂口恭平という方がいまして、これもライブに伺った時に少しお話させてもらって、アニメMV作りたいですと、直接お伝えはしたのですが自分の都合で着手できていなかったりします。

Q. MVは多額の資金が必要ですか?

自分がただで働いちゃえば、めっちゃ安く作れます。あと自分は商業アニメ以外のいろんな手法を持っているので、それらを駆使すれば金額を抑えつつクオリティを出す事は出来ます。インディペンデントの作り方でいろんな技法を大学時代に試しました。クレイ、ストップモーション、CGを使うこともできますし、ロトスコープもできます。あらゆる手法をコラージュしてもいいし、実写でもいい。なので金額は一概には言えません。

Q. かっこいいです。普通のMVはいくらかかってますか。通常あまり高くないイメージですが。

これも人によるので一概には言えません。通常のアニメとして作るならば、曲の長さが例えば3分だったとすると400万円ぐらいあればなんとか出来ます。自分であれば300万あれば普通に作れなくもないですが、金額は高いに越したことは無いです!600万ぐらいあればだいぶ余裕があるなという感じ。売れてるアーティストだと1000万2000万とかにかけてやるやつもあると思います。そういうのはやったことは無いですが(笑)。

自分はどちらかというと低予算が好きです。成約があると思わぬ発明が出来たりします。勘違いしてもらってはいけないのですが、安く受けるよというアピールでは無いです。

Q. 小林治さんの影響もあるのでしょうか。

それもあると思います。一人で全部の工程が出来てしまえば個人作家的に作ることが出来るので自分のお金のみ工面すれば良い。治さんが一人でほとんどのことをやっているのをずっと見ていたので、影響は確かにあると思います。

また、お金がないなら自分でどうお金を集めるか考えるのも楽しいです。今ではクラウドファンディングもありますし。

Q. クラウドファンディングについて、アニメータードミトリープロジェクトのBack to youというMVを作られていましたね。そのMVについて教えてください。

NPOのアニメーター支援機構は結構古くから付き合いがあります。

MVの前からアニメーター支援機構がやっているオンラインセミナーの講師を自分と道解慎太郎さん2人でやっていた時期が長くありました。その流れの中で、アニメーター支援機構がクラウドファンディングでお金を集めるという技術がだいぶ蓄積されてきて、アニメーターの低賃金問題の解決が目的の団体なので、自分でお金をあつめて単価の良い仕事を自分で作る、という事をはじめました。その第一弾があのMVです。

Q. 初めてのキャラデザインでしたね。

オリジナルのキャラデザインを仕事としてするのは確かに初めてです。原作ありきで「堀さんと宮村くん」というOVAでデザインをした事はありました。

Q. デザインの仕事はいかがですか。好きですか。

デザインの仕事は好きです。楽しい仕事ですね。

Q. 『ぶらどらぶ』や『火狩りの王』のオープニングを作業されたとき、押井監督に会えましたか、どんな会話をしましたか。

二回しか会ってないです。『ぶらどらぶ』のオープニングを作る前の最初の打ち合わせと完成した後のV編の時、この2回だけです。

打ち合わせの時、押井さんが仰った話は、「自分が関わった作品でオープニングを失敗したことがないので、今回も失敗しないという確信だけはある。だから自由に作ってくれ。」そう言って、空手に行くので帰ると帰っていきました。実質、打ち合わせは何もしてません。

Q. 押井さんもフランス映画が大好きですからね。残念ですね、あまり会話できなくて。

最初の打ち合わせではほとんど話しませんでしたが、完成した後のV編の時にたくさん会話ができました。

なかなか攻めた内容だったのもあって、クライアントがこれで本当に大丈夫ですかと言ったんですが、押井さんが大丈夫だからこのまま行くと言い切ってくれました。例えば、赤い服の上に赤い字をのせてたんですね。単純に見にくいじゃないかと意見が出るわけですけど、それを押井さんが変える必要ないと完全に後ろ盾になってくれて、すごく感謝しています。

「妙な色気がある、君の出自はどういう感じなの」って聞かれて、「うつのみやさとるの弟子です」「ああなるほどね」と押井さんの中で納得がいったような感じでした。あとはうつのみやは元気かとか、自分もしばらく会えてないんす、みたいな話をして終わりました。

Q. なるほど、よかったですね。今回はありがとうございました。

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脚注

注1. 脇顯太朗 (1989-). 撮影監督。現在のアニメ業界で最も有名な撮影監督の一人で、『ソードアート・オンライン』シリーズで有名になった。デジタルエフェクトの使い方は一目でそれとわかる。最近では、モバイルゲーム「UCエンゲージ」のPVで、映画「逆襲のシャア」のセル画を再現している。

注2. ちな (1996-). アニメーター、演出。『ヤマノススメ』シリーズで知られる若手アニメーターで、最近ではTOHO animation Music Filmsプロジェクトの一環として、短編『でたらめな世界のメロドラマ』を監督している。

注3. こむぎこ2000. アニメーター、イラストレーター。ずっと真夜中でいいのに。などの有名グループのMVで有名なインディペンデントアニメーター。

注4. 小林治 (1964-2021). アニメーター、イラストレーター、監督。2000年代に日本のアニメ界で活躍した最も独創的なアーティストの一人である。彼の尽力により『BECK』や『Paradise Kiss』等の作品で、多くの「Web系」アニメーターがアニメ業界に進出した。

注5. りょーちも(1979-) アニメーター、キャラクターデザイナー。 2000年代半ばに起こった「ウェブジェンネレーション」ムーブメントの中心人物のひとりとされる。代表作に『鉄腕バーディー DECODE』、『夜桜四重奏』シリーズ。

注6. 山下清悟 (1987-). アニメーター、演出。日本における「Web系」の代表的な一人。近年は『呪術廻戦』『王様ランキング』『チェーンソーマン』などの大型シリーズでオープニングを担当し、注目を集める。

注7. 磯光雄 (1966-). アニメーター、監督。90年代のリアルな作品で広く影響力を持つ、日本を最も重要視するアニメーター。デジタルアニメーションの先駆者であり、その後『電脳コイル』、『地球外少年少女』で監督に転じた。

注8. うつのみやさとる (1959-) 10年代初頭におこったリアル系アニメーションの先駆者。自由で印象的な作画で知られる。OVA『ご先祖様万々歳』ではキャラクターデザイン・作画監督を担当し、アニメ業界に衝撃を与えた。

注9. なかむらたかし (1955-). アニメーター、監督。80年代に発展したリアル系アニメーションの代表的な一人。大人気アニメーターで『AKIRA』の作画監督として、井上俊之やうつのみやさとるなどリアル系アニメーターのほとんどに影響を与えた。監督としての代表的な作品は『パルムの樹』『ファンタスティック・チルドレン』『写真館』などがある。

注10. 山村浩二 (1964-). アニメーター、監督。頭山』『幾多の北』などで有名な、日本を代表するアニメーション作家。東京芸術大学客員教授。

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