本多史典氏は、「ジョバンニの島」のプロデューサーで、磯光雄監督の「地球外少年少女」を制作するためにアニメーションスタジオプロダクション・プラスエイチを設立した方です。今回、プロダクション・プラスエイチを訪問した際にお会いすることができ、ショートなインタビューをさせていただきました。
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Q:元テレコム社長の竹内孝次プロデューサーのインタビューを去年しましたね。で、竹内さんに質問で、若いプロデューサーで面白い人はいるのかと聞いて、本多さんの名前が挙がりました。
H:ありがとうございます。
Q:では、磯監督との出会いをお聞かせください。
H:一番最初にお仕事したのが『ジョバンニの島』というプロダクションI.G.で制作した劇場映画の時で、その際は一人のアニメーターとしてお会いしました。その時のプロデューサーの櫻井圭記、今は櫻井大樹という名前で活動していますけど、その櫻井さんと僕で磯さんに原画の依頼を3回しました。3回目でようやくOKしてもらえたのですが、お願いできたのは1カットだけでした。その3回目が丁度クリスマスイブで大の大人3人でスペイン料理を食べていたことは今でも忘れられません(笑)。それが最初の出会いでした。
Q:どのカットでした?覚えてますか?
H:トロイカというロシア民謡を、16秒のカットなんですけど、数人のロシア軍人がヨールカ祭で乾杯しながら歌う1、それが磯さんが原画を担当したカットですね。
Q:+h.を紹介してくださいませんか?
H:+h.はやっぱり自分が今までやれなかったことを自分の裁量で自由にやりたいと思っています。特にデジタルだったり制作体制含めて、クリエイターのやりやすい環境というのを提供することで少しでも面白いものができる環境、新しいものにトライできる環境にしたいと思い設立しました。「地球外」では含めて、今までにやったことがないワークフローを、ああしよう、こうしよう、という試行錯誤のをスタッフみんなで考えながら作っていくことをやれてすごく面白かったです。
Q:「地球外」の尺が短くされたそうですが、その理由は?
H:短くなったというのは間違いですが、近く尺を切ったのは事実です。ただし、元々クライアントからの発注20分×6話、いわゆる30分番組の6話という構成だったんですけど、やっぱりどうしても磯さんの書かれるシナリオがすごく面白いものが膨大にあるので、20分×6話に収まらなかったのを、溢れ出てしまったものが結果的にそれぞれ30分くらいの実尺があるんでテレビシリーズでいうと9話分ぐらいの尺になってしまったというのが実際ですね。そのため、長かったものを短くしたわけじゃなくてもっと短かったのが長くなったというのが正解です。
Q:我々とよって何か「地球外」はちょうどいい、シナリオが深くて長くもなく短くもない感じがしますけど、磯監督はもっと長いものを作りたいというのは、本多プロデューサーはどう思いますか?
H:いや、本当に作りたいんですよね。磯さんが残したかった絵コンテを予算とスケジュールの都合でかなりのカット数を欠番にしてしまったので、本当は完全版を制作したい。
Q:「地球外」は予算を組むまでは結構長い旅でしたね。
H:はい。
Q:+h.は「地球外」のために立ち上がったそうですね。そのきっかけを説明してくださいませんか。
H:+h.が立ち上がるだいぶ前からにエイベックス・ピクチャーズさんが粘り強く営業をかけてくれてようやくプリセールスの話がまとまって、諸々の条件が整って設立に至ったというところです。2020年の3月ぐらいまで会社設立の話は出てなかったので、そこから4月ぐらいから急ピッチに話が出て動き始めた形です。
Q:Netflixと働いた知り合いのクリエイターたちはみんな観客の数とかわからない、プロモーションが理解できない、実際は作品を全然コントロールできなくてまあ不満が感じると言われました。本多さんはどう思いますか?
H:そういった意見もあると思います。「地球外」の場合は幸いイベント上映でしたけど二週間ずつ前編と後編の劇場公開できたので、ある程度の反応だったりお客さんの生の声だったりを聞けたのが良かったです。そういうのも確かに全くなくて独占配信でNetflixだけしか観れませんとなると、やっぱりどんなお客さんが観ているのか、お客さんの顔が見えないというのが気になるし、それが数字として出てこないのはクリエイターとしてもプロデューサーとしても歯がゆいところだなと思います。
Q:+hはあにめのたねの短編も作ったんですね。ベテランスタッフが関わったこの作品について一言聞きたいなと。
H:僕と懇意にお仕事のお付き合いをさせていただいているベテランの荒川眞嗣さんと伊藤秀樹さん二人に監督と作画監督として参加してもらいました。お二人とも長い付き合いでもうかれこれ10年以上の付き合いなんですね。長い間、僕の関わる作品をやっていただいていてます。僕が関わった作品ではないですが、荒川さんの有名な作品はそれこそI.G.で制作された『風人物語』ですね。目に見えない風を作画でどう表現するのか初めて挑戦した作品で、荒川さんならではの作画が見れます。荒川さんに対して僕が結構惚れていまして、とにかく荒川さんが作るレイアウトってめちゃくちゃかっこいいんですよね。リアルではないデフォルメだったりとか、手描きならではの味わい深いレイアウトを決めてくれる数少ないクリエイターのアニメーターの一人だと思っていて、すごく好きです。
荒川さんは亜細亜堂さん出身ですが、もう一人の作画監督の伊藤秀樹さんは吉田健一さんと同期のスタジオジブリ出身の方で、変わった経歴を持たれていてアニメーターを一度やめて大工をやってるんですよね。でも、大工の仕事中指を怪我してしまって、そこからまたアニメーターに戻ったのです。人生経験がとても豊富方で、話していてハッとする気付きを与えてくれる貴重な方です。本当に伊藤秀樹さんもずっと長く一緒に仕事をしていただいていて、作品に貢献していただいている。その二人も『ジョバンニの島』で本格的に一緒に仕事をしました。僕にとって『ジョバンニの島』で一緒に仕事をしたスタッフがずっと+h.でも継続的に仕事をしてくれているのは非常に大きいです。
Q:これからの計画は何ですか?
H:今制作進行中の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』という浅野いにおさん原作の初アニメ化作品です。もちろんうちの会社の素晴らしいスタッフたちで総力を結集して制作しています。
その後の作品の企画いろいろ進行でして、おかげさまでたくさんのクライアントからオファーをいただいています。2025年ぐらいまで事が埋まっているという状況ではあるのですが、しばらく会社的には大きく成長していくのだろうなと手応えを感じています。
Q:オリジナル作品も作りますか?
H:オリジナル作品ももちろんあります。
Q:最後の一言は?
H:そうですね、アニメーションは何回作っても完璧に作れたことがないですね。その完璧に作れなかったという悔しさをバネに次の作品にそれを毎回生かして作っていくっていくのですが、あとは僕が何歳まで現場で役に立てるのか正直わからないんですよね。できるだけ自分の考えだったりとか気持ちを下の世代の制作たちに受け継いで育っていってほしいなと思っています。
Q:ありがとうございました。
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